優勝筑波大

 関東リーグでは5位に終わった筑波大の下剋上といえる4年ぶりイ
ンカレの優勝だった
 過去の優勝とはまったく異なった、ロケットスタートから始まっ
た決勝の戦いぶりだった。

「スタート5分の気持ちの入った、神かがりなアウトサイドシュート。うちのチームとしては信じられないような光景だった。これは今大会を象徴している。4年、3年がチームをまとめて戦っているのが前面に出た形。やはり、インカレは4年の集大成の大会ですね」
 と、筑波大・
吉田健司監督は胸の内を明かした。

 キャプテンの#88牧 隼利(福岡大附大濠、4年・188㎝)、#10増田啓介(福岡大附大濠、4年・193㎝)がチームを牽引、3年のフォワード陣がバックアップする。さらに、筑波大ベンチにはもう一人、チームを支えた4年がいた。
 筑波大バスケットボール部2人目となる医学部に在籍している#0伊藤優圭(札幌日大、4年・176㎝)だ。
0伊東

 コートに出ている選手だけでは何かが足りない
と、7月まではBチームにいた伊藤に声をかけた。
 ただでさえ、医学部の学生が医学系の大会ではなく通常のインカレに出場するということ事態、非常なレアなケースだ。

「大事な実習と大会が重なると医学部では部活のために休むという感覚がないので、担当の先生と話してぎりぎりに出させてもらったりとか。1、2年のころは部活にいけないこともありました。実力的にはAチームでプレイするにはまだまだ達していないとは思います。でも、これまでAチームで牧が大変だったのを目の当たりにしていて、助けになるようBチームの何人かAに上がれたらいいなと話していました。新チームになる3月の時点でBチームからAに上がれるのは誰もいませんでした」
 と、
伊藤は振り返る。

 トーナメント後、から伊藤にこう声がかけられた。
「俺1人ではきつい。チームを盛り上げるためには4年も少ないし、苦しい。手伝ってくれないか」。
 リーグ戦からベンチ入りした伊藤はベンチから声をからして、チームを盛り上げる裏方に徹した。

 リーグ戦で特に終盤うまくいってなかったので、何ができて何ができていなかったか、4年だけで集まって話をしてきた。
「こうしたらいいんじゃないか」
 と、練習で徹底してやって、ディ
フェンスのルールにしても、

「今までもぼんやりとはあったけれどあらためてはっきり決め
てそれを徹底しよう」

 と吉田監督が伝える。それを伊藤がチームにどれだけ徹底させるか。インカレに向け集中してできた。

 華やかなオフェンスに目がいきがちだが、筑波大優勝の根幹はディフェンスの徹底にあった。専修大のエース#34盛實海翔(能代工、4年・186㎝)に対し、フェイスガード。さらに、インサイドの#30アブ・フィリップ(アレセイア湘南、4年・196㎝)にはダブルチームどころか、トリプルチーム、時には筑波大オンザコート5人の目がフィリップに集中して注がれていた。

 
フィリップはこう言う。

「今までも自分に対してダブルチームでくることはよくあったけど、逆サイドのポジションの選手がみんな自分のほうを見ていた。
 ディフェンスにしても逆サイドから1オン1を仕掛けてくるからドライブできたらブロックショットを狙ったりしなくてはいけないから、マッチアップしていた井上がアウトサイドに出てスリーポイントを打った時にチェックに行けなかった
…」 

 結果的には#75井上宗一郎(福岡大附大濠、2年・201㎝)に3本のスリーを許してしまった。もっとも、専修大が外角が入らず20点差まで点差が開いたのを再度点差を縮めたのも、フィリップの闘争心に再び火がついたことに起因している。
 決勝のラストシーンには、吉田監督のいきな計らいがあった。伊藤も他の4年とともに決勝のコートに送られたのだ。
 伊藤にとって、その景色はどう映ったのか。

「夢のような4年間でした! 筑波に入って、最高の仲間に恵まれて見られた日本一の景色、一生忘れません。
 僕のようなプレイヤーは、中学校も地区の1回戦負けのチームでしたし、高校も以前は強いチームでしたけど、ケガをしてしまい、“日本一”は夢のまた夢でした。でもどうしても日本一になりたかった。Aチームに入れて、念願の優勝もできて今はまだ実感はわかないです。そんな僕が推薦で入ってくるような選手と一緒にこんな経験をさせてもらえるのも筑波大だから。意識の入学当時スキルとかない人でも、誰でも高い人たちと一緒にやらせてもらえる環境だからこそAチームと関わらせてもらった。それは、他のチームにはない強さというか長所。下から這い上がってくることもみんながわかって
いました」(伊藤)

 通常の大学生は4回の登録までしか認められないが、医学部生は5回の登録が認められている。しかし、伊藤は入学時に
「4年間でやりきろう」
 と決めていたと言う。


  学生最後のインカレ、今大会伊藤のプレイタイムは7分36秒だ。しかし、これまでの思いが結実した時、伊藤の顔はスターターに負けないくらいの輝きを放っていた。<了>